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シミュレーション仮説といった最近の宇宙論や哲学でも「どうもこの世界は実体として存在してないんじゃないか」ということが言われている。

さよう、ないのである。

というか空像、ホログラムのように投影されたビジョンであるというのがいくらか精確な表現といえる。

とはいえ私たちが感じる苦しみは本物だ。指先を少し切っただけでも驚くほどに痛い。侮辱されれば相手を殺したくなるほどに腹が立つ。鏡の前に立つと嫌でも自分が年をとったことを見せつけられる。世の中に病気はすさまじい数があり、時おり爆発的な感染を起こす。死は避けられない運命なのに、それを考えるだけで叫びだしそうなほどに恐ろしい。

この世界はないのだ、これは幻なのだ、と呟いてそれらから目を背けたり、やせ我慢してみても痛みと苦しみ、それに対する不安と恐怖はそこで待っていてこちらをじっと見つめている。

苦痛から解放されるには、この世界の幻想性を実感を持って体得する必要がある。