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現代では書店にいけば「~の心理学」とかものすごい数の本が並んでいる。専門書も多いが、近年では一般向けの平易なもの、特に恋愛テクニックと自己啓発系の書棚にも心理学を冠した本が花盛りである。しかし、娯楽としての読み物にはいいが、心理学で「生きる」という問題は解決しない。その理由は西洋の人間観がベースになっているためである。特に近年ではアメリカ合衆国が研究の中心になっているせいか、立志伝にでも出てきそうな強力なエゴを持ち、権力を手に入れて他者を服従させ「自己実現」する、そういう人間が理想像とされている。そこにどう近づくか、ということがシステム化されているのが大方の心理学という学問だ。

これは自己実現ではなくエゴ実現である。エゴの求めるところを実現しようとする行為、その実態は底なし沼である。人間の頭で作った椀には一国の富すべてを入れても満たすことができなかった、というおとぎ話がある。寓話の形をとっているが、これは事実だ。なので心理学の求める要件を満たそうとすれば、不幸にまみれながら底の抜けたコップにえんえんと水を注ぎ続け、失意のうちに老いて死んでいく他はない。