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「もし何らかの事情で生まれていなかったら、『この私』は今ごろどうなっていたのだろう」。こんな風に考えたことがあるかもしれない。

実は何も変わらない。

生まれなかった場合、ただただこの現世にアクセスする手段はもっていなかった、というだけのことなのだ。記憶を蓄積したり食事をしたりといった人間の活動・経験をすることは不可能ではあった。しかし、私たちの本質は[全体なる一つ]であって、人間としてのかたちを持つことは覗き窓が開く、というくらいのことである。

この世界の全ては[全体なる一つ]の内で生じている。生まれることも死ぬことも除き窓の明滅である、と表現できる。

[全体なる一つ]には時間が存在しない。その不動の地点から時系列で組み立てられたこの世界という像を、人間として経験しているのが今ここの私たちだ、ということ。